七夕の贈り物

じゃんぷアルバム発売記念(あてくしまだ聴いてない…)&七夕のプレゼント、と、友からステキなものをいただきました。
本当に素敵なお話で、わたし一人で愉しむのはもったいないから、と、友にアップ許可もらっちゃいました☆
こういうのイケるクチの方は、是非楽しんでください。感想などもあれば、拍手から是非に!責任持って友に伝えます。
つか、こんなにステキなお話読めるなんて、彼女をじゃんぷちゃんに嵌めてよかった…!!!と、100回くらい思ったことをまた思う。
しゃどぼPVの、ほんの一瞬のシーンをここまでに出来る友の才能に、あてくしは心底惚れ込んでおります。次はやぶきいでよろしくー(どさくさ紛れた(笑))







Make a Wish




最近龍太郎がなにかの拍子にまるで自分の名前を呼ばれたようによく振り返る。
圭人もつられて彼の視線を追いかけるが、もちろん圭人の耳には何も聞こえな
い。龍太郎の視線は時に窓の向こう側だったり廊下の奥だったり階段の下を見る
けれども、圭人の目で見る限りはそこにはぶ厚いカーテンが揺らめきもせずにか
かっていたり、夜中の静けさが張りつめていたり、地下の影がはいのぼってきた
りしているだけで、つまりそこには何の気配も感じる事はできなかった。
龍太郎はこの屋敷に住む誰よりも感応性が高い。それはテストでもふだんの生活
からも明らかで、だからこそこの屋敷にいるのだという事も圭人は知っている。
自分が精神を研ぎ澄ませるとその対象と自分を同期化(シンクロ)させる事がで
きる。同様に、彼の高い感応性は特に聴覚に発揮され、いわゆる「人在らざる
声」を時に聞く事ができた。彼と圭人が違うのは、圭人が意識して集中力を高め
ないと同期できないのとは逆に、龍太郎は時折無意識の中に本来聞こえないはず
の声を聞き、音を感じる点だ。
いつかの食堂で、メイトの一人は柔らかい声でこう言った。
「龍太郎は、きっと昔々だったら『神様』って呼ばれたんだと思うよ」
彼は赤いベルベットで装丁された古めかしい本をめくりながら続ける。
「そこに聞こえない『願い』を聞き、声にならない『祈り』を読むんだ」
それはまるで。
一緒にいたPK系のメイトらは一斉に目を輝かせてそれはすごい!と口ぐちに言
い、彼を称賛のまなざしで見つめた。けれども実際にそう指摘したメイトもそし
て圭人も、それらに同調できずにいた。きっと発言したメイト―――慧も自分も、
龍太郎と同じセンシティブに類される系列の能力者だからに違いないと、圭人は
そう思っている。
慧は黙って微笑んでいた。




今日は雨が降っている。二人で使うには十分な広さのある部屋の窓側のベッドに
寝転びながら、圭人は窓の外をぼんやり眺めていた。いつも見る風景。浮彫彫刻
が施された、流れるようにゆるやかな曲線でかたどられているバルコニーが並ん
でいる。降り積もった歴史の長さを感じさせる屋敷たちの外を取り囲むのは、今
は闇にしか見えない深い森。圭人の耳には暗色の空から光り落ちる雨のしずくが
地面を叩く音しか聞こえない。室内の時計が進む針の音すら吸い込まれて消えて
いくような深夜だ。
そろそろ寝ようと目を閉じようとした時、ふとシーツが擦れる音がした。反射的
に圭人は廊下側にしつらえられている2つ目のベッドを振り返る。眠っていたは
ずの龍太郎がいつの間にか半身を起こし、こちらを見ていた。正確には圭人がい
るベッドの向こう側、圭人には雨の音しか聞こえない窓の外の深い闇の中を、龍
太郎は見ている。

「昔々だったら『神様』って呼ばれたんだと思うよ」

慧の言葉を圭人は思い出した。だったら『神様』ってどんなに強い人だったんだ
と圭人は思う。自身のウォーミングアップなどお構いなしに他人の「願い」が聞
こえ続けるだなんて。それも昼夜問わず。あれが食いたい、あの人が欲しい、そ
んな単純な願いばかりだったらのぞき見気分で楽しいかもしれない。けれどもそ
んな「願い」ばかりではないはずだ。その事は圭人も、そして龍太郎も既に知っ
ていた。「欲望」「憎悪」「絶望」「怨嗟」。彼にはどんな「願い」が届いてい
るのだろう。圭人は闇を見つめる龍太郎から視線をはずすことができなかった。




どれぐらいそうしていただろうか。気が付いた時には、龍太郎が圭人を見てい
た。まるで圭人の「願い」が龍太郎に聞こえたようだった。
「……泣いてるんだ」
「え?」
「女の子が、ずっと泣いてるんだ」
圭人は改めて窓の外を見た。居並ぶ屋敷のどれにも明かりは灯っていない。
龍太郎は更に言う。力を込めた中で、ようやく絞りおとされた一滴のような声で、
「出してほしいって泣いてる。ここから出してって泣いてる」
「……」
「ずっと泣いてるんだ。昨日もおとといも、その前から」
ずっと泣いてるんだ。最後に龍太郎は苦しそうに顔をしかめた。圭人の呼吸も瞬
間止まる。

(『神様』も泣いたんだろうか)

圭人はいつの間にか、意識のはしで龍太郎と同期していた。聞こえた気がした。
か細い泣き声。「出して」と祈りに幼い指を組む、小さな女の子の願い。
何よりも。




夜はまだ冷える木床を裸足に感じ、圭人は自分を見上げる龍太郎の前に立った。
龍太郎の視線が順じて動き、目の前のメイトを言葉もなく見つめている。
圭人は静かに両手を差し出した。そして龍太郎の耳を押さえる。柔らかく、けれ
ども指はきっちりと揃えて、なにものも通さないという意志と「願い」を込めて。
自分の聴覚を閉じる圭人をそのままに、龍太郎は動かなかった。静かに圭人を見
ていた。
やがて、彼はゆっくりと目を閉じた。
(おれの「願い」も届け)
簡単なねがいごとを、ひとつだけする。
(おやすみ、龍太郎。もう眠ろう)
龍太郎は「神様」じゃないよ。龍太郎だけじゃない。この世の誰も、神様になん
てなれない。もちろん慧ちゃんもおれも。
(だから今日はもう寝ちゃおう)




やがて寝息のような穏やかなリズムを作り出した龍太郎の意識と、圭人は同期
(リンク)する。それでもしばらくは、このままでいようと、圭人はいっそう手
のひらへの力を込めた。






__________________________

おわっりー。一応全員絡める続きも考えてる。シメは全知万能な山ちゃんの予定
(笑)。全員分のサイ能力を考えるのがめんどくさくも(笑)楽しい。主なサイ
能力って基本7つぐらいしかないんだけどね……。足りないっつうの。